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千葉県歯科医師会の未来を語るインタビュー!!「WHITE CROSS」のインタビュー記事から、その内容を紐解いていきたい!!

WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。

「8029(ハチマル肉)運動」、そして歯科医療の成長戦略 千葉県歯科医師会の挑戦

時代の移り変わりと共に、社会から求められる歯科医療の役割は変化して行く。日本歯科医師会が「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」というスローガンのもとに展開してきた「8020運動」。その幕開けの1989年から30年が経ち、当初10%にも満たなかった達成率も、2016年段階で50%を越えた。そして高齢化が進む現代においては、口腔機能の維持が求められるようになり、「8020運動」に加えて「オーラルフレイル対策」の推進が始まった。

2019年の国家戦略である骨太の方針においては、歯科医療の役割として、医科歯科連携に加え、介護、障害福祉関係機関との連携などが明文化された。このことは、これまで慣れ親しんできた歯科医療単体のエコシステムの終焉を示している。

それではこれからの歯科医療はどこに向かって行くのか。どのような価値を日本社会に提供して行くのか。そして、どのように歯科医療の枠を超えて行くのか。WHITE CROSSではその答えを求めて、千葉県歯科医師会の会長の砂川稔先生、専務理事の久保木由紀也先生、そして理事の小宮あゆみ先生にインタビューをさせていただいた。

千葉県歯科医師会の時流を捉えた成長戦略である「8029・健康寿命延伸プロジェクト」。 人々の健幸を高める「8029(ハチマル肉)運動」。そして「児童相談所への嘱託歯科医師の配置」など、歯科医療の枠を超えた活動の全容をお伝えする。


「8029(ハチマル肉)運動」、そして歯科医療の成長戦略

youtubeより

Q.  8029運動」について、お聞かせください。

小宮先生

8029(ハチマル肉)というスローガンには、おいしく、楽しく、肉を食べている80歳をイメージしています。実際には肉のみならず魚や卵なども含めた良質なタンパク質全般を摂取することによって、筋肉を維持し、健康を維持して、社会参加し続けられる高齢者でいようという思いが込められています。

近年、「食べる力」は「生きる力」として認識されるようになってきました。その時流に合わせて、私たちが「8029運動」の先に見ているのは、単なる健康的な口腔という歯科的発想を超えた“健幸”です。例え、血圧が高くても、持病があったとしても、生きるその日々を幸せだと感じられること。それを目指しています。

砂川先生

健康ではなく、健”幸”としたことには理由があります。医療においては、全てを数値化して考えがちですよね。「ここから前が健康で、ここか先が不健康です。数字がXだから、〇〇しなさい。」と。

でも、健康や幸福って、本当にそういう数字だけで判断できるのもではないですよね。同じ状況でも、本人がどう感じるかで全然違います。ここにおいて、「ウェルネス」という概念が8029運動の柱となっています。

 「ウェルネス」というのは、1961年に米国の公衆衛生医であったハルバート・ダン博士によって提唱された概念で、「心身ともに健康で輝くような状態」という意味です。健幸長寿の健”幸”は、ヘルスの”康”ではなく、ウェルネスの”幸”であってほしいという願いが込められています。

Q. 8029運動が生まれた背景についてお聞かせください

砂川先生

実は、8029(ハチマル肉)というスローガンは、2017年11月に東京湾岸リハビリテーション病院の近藤国嗣先生をはじめする医科の先生方との地域医療連携の会議の後席で偶然生まれたものだったのです。近くの焼き鳥屋さんだったのですが、そこで医科の先生から「8020なんてもう古いよ。これからは8029(ハチマル肉)だよ!」と言われたことから始まっています。その場の勢いもあって、「よし!このスローガンで活動をしていこう!」と思ったことを鮮明に覚えています。 

小宮先生

言葉を変えて、似たようなスローガンをおっしゃっていた医療関係者はこれまでにもいらっしゃいました。「80」「20」に、いろんな数字を当てはめて・・・。ただ、ダジャレから生まれた29ですが、数字でなくで「肉」を意味するのは wit に富んでいて、とても新鮮に感じられました。真面目でありながらカジュアルな場で生まれた言葉だからこそ、これからの時代に歯科医療が国民に提供できる価値をうまく表現していて、固くなりすぎず受け入れられやすい言葉なのではないかと感じています。

砂川先生

それぞれの時代に、それぞれの価値観や理想があります。素晴らしい成果をあげてきた8020運動ですが、私は今の時代背景や人類の歴史と照らし合わせて、どこか違和感を感じていました。

8020運動が始まった頃の日本社会は、バブル景気の真っ只中で、まだう蝕が溢れていた時代だったんですね。そのため、その頃の歯科医療は削って詰める、削って詰めるという時代でした。その時代の歯科医師の思いは、「国民の歯をいっぱい残すんだ。歯並びが綺麗な人を表彰しよう。」というものであり、それが「8020運動」や「ベストスマイル・オブ・ザ・イヤー」などにつながり、今日に至ります。

そして、超高齢社会を迎えた今、8020運動達成者率50%越えという素晴らしい成果が得られました。その一方で、その光の当たらないところには、口腔機能が喪失した高齢者、歯科治療の行き先がない障害者、児童相談所で見落とされた児童など、歯科医療の価値を得ることができなかった患者さんが多くいらっしゃるのです。そこで、現代日本に生きる私たち歯科医療従事者に、何ができるだろうかと考えました。

私は講演会で、「もちろんこの30年間で日本社会の口腔衛生は大きく改善されてきました。しかしながら、我々が追い求めてきた8020運動には、そこはかとなく優生思想を感じます。いいものを残し、いいものを表彰し、いいものを・・・いいものを・・・歯が残っていることを・・・歯並びが綺麗な人を・・・そういうものだったと思うのです。」と話しています。

ドイツのビスマルク首相の言葉に、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というものがあります。歴史が物語るように、優生思想に基づいた考えや運動には危険性があり、例えそれが人を害するものではなかったとしてもどこかで限界を迎えます。「良いものだけを・・・」という考え方では、社会は守れないのです。

既存の歯科医療の枠を越えて、何ができるのかを考えていかなければいけないこれからの時代において、8029運動を通じて人々の生きる力に根本から寄り添うために、人々の幼少期から寄り添い、高齢者や障害者、虐待されている可能性のある児童などにも手を差し伸べていく。そういう8020運動に感じる優生思想とは異なる思いで推進されていく。それが8029運動なのです。


Q. 8029運動」は、歯科医師会の戦略の主軸となっているとお伺いしました。

小宮先生

超高齢社会を迎えた日本の現状を見てみると、平均寿命が伸びたからと言って、誰もが健幸でいられるかというとそうでもありません。

健康という観点で見ても、平均して人生の後半の10年間は、介護が必要になったり寝たきりになったりします。そのための対応として、介護力がより必要となり、医療費も高騰して行きます。その一方で、生産年齢人口は継続的に減少しており、若者一人当たりの負担も増しています。この流れの中で、日本という国を維持していくためには、より多くの高齢者が健康で社会参加できる状態を維持して行く必要があります。

歯科医療への日本社会からの期待は高まってきています。2017年の国家戦略である骨太の方針の中で、「口腔の健康は全身の健康に繋がる」ということが明文化されました。また、東京都健康長寿医療センターが出した「健康長寿新ガイドライン」12ヶ条において、第1条「食生活」、第2条「お口の健康」が掲げられています。

8029運動は、80歳でも肉をはじめとする良質なタンパク質を摂取できるような口腔機能を維持しようというものなのですが、これは高齢者に限ったことではありません。8029を目指すのであれば、幼少期からの健全な口腔機能の育成・維持が必要になります。そこにおいて、8029運動という観点に立つと、人々の人生の全てのステージにおいて歯科医療として関わっていかなければならなくなります。

そしてそれは、歯科医師会が行なっている事業の全てが、8029に繋がっていくことを意味しています。実際に活動してみると、それは確信に変わってきています。

砂川先生

国家戦略に沿って、日本国がどうあるべきで、医療・介護・福祉がどうあるべきで、歯科医療がどうあるべきで、そして、私たち個々の歯科医師がどうあるべきか。それを貫けるのが8029運動だと考えています。

こちらは先日、本会の代議会で披露した「8029・健康寿命延伸プロジェクト」という千葉県歯科医師会の戦略です。そこには5本の柱があり、8029運動とつながるように、個々の事業の位置付けが記されています。

この戦略図は、これからの時代の歯科医療のあるべき姿そのもの、そして、歯科医師会の存在意義そのものにつながるものなのです。そして、それぞれの活動が、日本社会に歯科医療がより深く、より意義のあるように繋がって行ける施策なのです。

本会で作ったものですが、日本歯科医療そのものの成長戦略として作ったつもりです。勿論、中央である日本歯科医師会がしっかりとした成長戦略を立てて、政治力、中央に対しての影響力を適切に高めて行くことができれば、これらの柱の一つ一つが、日本を支える確かな柱に成長して行くと考えています。

Q.  8029運動の推進状況について具体的にお聞かせ下さい。

小宮先生

8029という言葉に触れた数日後には、具体的に動き始めました。まずは、ロゴの考案、商標登録を申請して人格を与えることとしました。そして、千葉県歯科医師会として臨時委員会を立ち上げて、まずはフレイル予防の観点からこの言葉を周知していこうということになりました。

早速、フレイルという概念を提唱・確立した東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授に面談に伺って、同じ方向を向いてお力添えいただける素晴らしい関係を築かせていただきました。

そして、プレスリリースをしようということで、いろんな報道機関を表敬訪問して、8029の周知にご協力をいただきました。

読売新聞、日経新聞、毎日新聞、朝日新聞での記事

そこからは様々なイベントですね。昨年11月の千葉県歯科医学会での千葉県民へのお披露目として、千葉ロッテマリーンズと連携してのトークセッションから始まり、NHK千葉ラジオに生出演したり、千葉県畜産協会、株式会社ロッテやイオン株式会社とイベントの企画をすることになりました。

久保木先生

千葉ロッテマリーンズとは、様々なコラボしています。マリンスタジアムでのイベントに参加させてもらったり、プロ野球開幕の前日に「私たちも8029運動を応援しています!」というポスター広告を新聞に大きく出してもらったりしました。

千葉県歯科医師会専務理事久保木由紀也先生

この広告をもとに、ポスターを作って、歯科医師会会員の診療所に貼ってもらえるようにしました。そしてその先には千葉県民への周知ですね。

 マリーンズの8029運動推進ポスター

これは8029・健康寿命延伸プロジェクトの2本目の柱「インバウンド事業」に当たるものなのですが、ロッテ・ホールティングスのガムがおかれている売り場にも8029運動のポップをおかせていただいています。


日常生活の中で目にする8029運動のポップ

それだけでなく、千葉県の幕張新都心に本社をおくイオングループなどの大手企業ともコラボをして1,500超の人を集めるような大きなイベントを行ったりと、食の関連する領域などから8029運動を発信してもらっています。

砂川先生

1本目の柱「調査・研究事業」にも注力しており、ロッテホールディングスの力を借りて、日本大学松戸歯学部と連携してエビデンスの蓄積のための研究事業も開始されます。ロッテですので、ガムを使ったトレーニングによって口腔機能を回復させることよって、介護施設の介護時間が短くなるかどうかを検証してみようという研究です。

4本目の柱「新たな行政領域・一般企業との事業連携」に当たるところでは、私が千葉県畜産協会会長で法務大臣も務められたことがある森英介代議士と親しくさせていただいていたこともあり、まさに8029の肉といえば畜産ということもあり、お声がけさせていただいたところ「ぜひ、ご一緒させてください」とご快諾いただけました。千葉県は畜産が盛んなので、この土地で歯科の枠を超えた社会活動として育てていくための、大切なパートナーになっています。

畜産協会の枝肉共励会に参加した姿

その関係もあって、8029運動のイベント会場では、千葉県産のローストビーフを振る舞ったりさせていただいています。


小宮先生

また、内閣官房が日本文化の魅力の発信と、2020年以降を見据えたレガシー創出を目的に主催してる「beyond2020」においても、「8029マイベスト応援プログラム」として認定いただきました。

内閣官房からの認定証

このようにして「8029・健康寿命延伸プロジェクト」の各柱に基づき、これまでも関わりが深かった厚生労働省に加えて、内閣官房や農林水産省。歯科と関係性のなかった一般企業、各種メディアや他の医療職などの力も借りて、8029運動は大きく社会に広がっていこうとしています。また、現在、総務省がスマートウェルネスのようなシティー計画も進めています。そういうものともコラボしていきたいな・・・と考えています。

折角なので8029のキャラクターを作ろうということで、近隣のデザイン学校にアナウンスをしまして、数多くのキャラクター候補を応募いただいた中で、今回3作品を選びまして県民投票も行いました。

採択されたキャラクターデザイン

砂川先生

当初は8029運動ってなんだろうという感じだった千葉県歯科医師会の会員の先生方も、少しずつ参加いただけるようになりました。今では自発的に8029運動に関わり、情報発信してくれるようになっています。

このように、「8029・健康寿命延伸プロジェクト」という戦略の中で、8029運動は歯科医療の枠を超えて行く活動なのです。そのためには、厚生労働省だけではなく他の省庁や一般企業や医科、そして国民にふ落ちしてもらえるように、歯科の言葉でありながら彼らの言葉になるように働きかけて行くことが大切なのです。

また、社会とのつながりを常に意識することが大切です。ご存知のように、今年、千葉県は台風による甚大な被害を受けました。災害直後は、復旧のことばかりに目が言っていたのですが、千葉県の農林水産関係は400億とも言われる大被害を被っていました。

8029運動を通じた畜産産業との縁。例えその縁がなかったとしても我々にできるのは、千葉県の農林水産業が復興できるように、千葉県産の食べ物を買い支えることだと考えました。そして、歯科医師会から千葉県行政に働きかけたところ「是非、一緒にやりましょう」と言っていただけて共同事業になったんですね。そして、その翌週から、このチラシを配布し始めました。

千葉県産のお肉を食べようチラシ

私たち歯科医師は、ともすれば目の前の歯科治療に集中してしまいますが、日本社会の中で、世間のおかげさまで生きているのです。こういう時に、歯科医療に何ができるか。社会のために何ができるか。そういう事を考え行動して行くことも歯科医師の大切な役割です。そして、それを歯科医療の枠を超えたより大きなムーブメントにしていけるのも、歯科医師会という土壌があってのことだと思います。そういう活動の一つ一つが、社会が歯科医療をどう捉えられるかがに影響して行きます。

今回は、千葉県歯科医師会の会長の砂川稔先生、専務理事の久保木由紀也先生、そして理事の小宮あゆみ先生にインタビューを行った。前後編の2回で、千葉県歯科医師会の時流を捉えた成長戦略である「8029・健康寿命延伸プロジェクト」、 人々の健幸を高める「8029(ハチマル肉)運動」。そして「児童相談所への嘱託歯科医師の配置」など、歯科医療の枠を超えた活動の全容をお伝えする。

これからの歯科医療はどこに向かって行くのか。どのような価値を日本社会に提供して行くのか。どのように歯科医療の枠を超えて行くのか。それらを描き出して行くことで、日本社会における歯科医師会の真価に迫る。


日本歯科医療はどこに向かうか

Q. 全国に先駆けて、児童相談所への嘱託歯科医師を配置したことについてお聞かせください

砂川先生

近年、児童虐待についてのニュースを目にする機会が増えてきました。今年の1月には、千葉県においても心を痛める児童の死亡事件が起きてしまいました。

振り返れば、児童虐待の防止等に関する法律は2000年に制定されたものです。実は千葉県内に7箇所、児童相談所があります。法律の制定を受けて、我々歯科医師会は年に1回、児童相談所に歯科健診にいっていたのですが、それってデータの収集にしかなっていなかったのです。

「ネグレクト受けている児童の口腔内環境は悪い」という事実を知ることには繋がったのですが、じゃあ本当に子供達を守るために、具体的な何かをできていたかというと何もできていなかった。もちろんネグレクトとデンタルカリエスの関係がわかった。それはそれで素晴らしいことなのですが、そこから一歩踏み出していく必要があったのです。

私は2017年に、千葉県歯科医師会の会長に就任しました。同年6月に同法の一部改正があって、そこで初めて「児童虐待の早期発見において、重要な役割を果たせる」として、歯科医師の名前が載ったんです。同時に、児童福祉法においても歯科医師の名前が載りました。

その流れを受けて、今までやってきた歯科医師会の事業を見返し、全ての児童相談所への嘱託歯科医師の配置を行政に提案して、翌2018年の行政が作った基本計画に盛り込んでもらいました。そして今年の4月にこの事業がスタートしたのです。

歯科医療の立場からトラブルを見出し、子供たちに手を差し伸べられる取り組みとして、全国初の取り組みです。この11月には、浦安にある明海大学の大講堂で、児童虐待防止の歯科研究会学術大会を開催します。

国の法律や計画が変わって行く中で、我々に何ができるかを考えて動くことが大切です。国や中央が方針を決めたからといって、地方がそのままスムーズに変わっていけるわけではないのです。歯科医療の立場から社会を前進させて行くためには、積極的に都道府県行政に働きかけて行く必要があり、そのための県歯科医師会なのです。

久保木先生

これはあくまでスタート地点にすぎません。全ての児童相談所に嘱託歯科医師を配置し、ネグレクトの早期発見のための機会増やした。そして、その先を考えていかなければいけません。

一般社会や学校での教育機会に繋げること。児童相談所のデータ管理を一元化して行くこと。そこに関わるいくつかの細かい法律の調和を図って行くこと。そういうところにまで昇華させて行く必要があります。

これは国の方針に合わせて我々がやってきたことを、国にフィードバックして、より良い社会を作って行くために必要なプロセスです。

Q. 日本社会から求められる歯科医療を目指して、これからの歯科医療はどこに向かうべきでしょうか?

小宮先生

ここまで、千葉県歯科医師会の戦略である「8029・健康寿命延伸プロジェクト」、 人々の健幸を高める「8029運動」。そして「児童相談所への嘱託歯科医師の配置」についてお話をさせていただきました。これらは全て歯科医療の枠を超えて、社会全体に深く、そして大きく関わる活動だということをご理解いただけたかと思います。

例えば、省庁で言うのであれば、これまでの歯科医師会は厚生労働省と文部科学省の学校歯科検診関係のこと以外には、なかなか目を向けて来ていませんでした。しかしながら視座を高めて、歯科の枠を超えて活動しようとした時に、もっともっと歯科医療の立場から社会に還元できることがあるのです。  

久保木先生

「8029・健康寿命延伸プロジェクト」、「8029運動」、「児童相談所への嘱託歯科医師の配置」。これらは千葉県歯科医師会が始めたことかもしれませんが、千葉県歯科医師会のものではありません。日本全国、どの地域社会にでも当てはまることなのではないでしょうか。都道府県の枠を超えて、全国の歯科医師会が共感して、同じ思いで動いてくれるならウェルカムです。手と手を取り合って一緒に活動して行きたいと思います。そうして、これらの活動が、歯科の枠を超えた活動として広がり、日本全国の人々を健幸に貢献して行くことを願っています。

砂川先生

私たちがやっているのは、歯科医療の立ち位置から社会の仕組みを作りに参加し、貢献して行くことです。そのためには、やはり歯科医師会・歯科医師連盟の組織力がすごく大切なのです。そうしなければ、私たち自身の職域も守っていけないのです。様々な先生がいてこその歯科医療ですが、個々人が良ければ良いという考え方では、歯科は確かな価値を社会に提供できません。

日本社会のために、そして私たち歯科医療従事者自身のためにも、私たちを信じていただき、全ての歯科医師の先生に歯科医師会・連盟に参加して欲しいと願います。


取材を終えて

8020運動に代表される先人達の努力の結果、高齢者の残存歯数が増加し、次の課題として歯周病罹患率が増加してきている。そして口腔健康、特に歯周病とさまざまな全身疾患との関連性が指摘され始めているなか、2017年に国家が口腔健康と全身健康との関連を認め、歯科検診と口腔ケアを推進することを明文化し、2019年には2022年度までに60歳代における咀嚼良好者の割合を80%以上にすることが目標として設定された。

また、2019年の国家戦略である骨太の方針においては、歯科医療の役割として、歯科医師・歯科衛生士によるフレイル予防や、介護、障害福祉関係機関との連携などが明文化された。


超高齢社会、人生100年時代、フレイル、地域包括ケアシステム、ネグレクト・・・現代社会を表現する様々な言葉が溢れかえる中、これからの日本の歯科医療のあり方を表現し集約できる言葉はないだろうか・・・。それは歯科医療の成長戦略の柱となり、歯科医療と社会とのつながりを感じさせられるものであって欲しい。そう考える日々の中で「8029運動」に出会った。

初めて聞いた時には不思議に感じたその言葉だが、取材を通じてその本質を知れば知るほど、その言葉が持つ強烈なまでの「はまり感」を感じさせられた。

「良いものだけを・・・」という考え方では、社会は守れないのです。

8029運動を通じて人々の生きる力に根本から寄り添うために、人々の幼少期から寄り添い、高齢者や障害者、虐待されている可能性のある児童などにも手を差し伸べていく。

国家戦略に沿って、日本国がどうあるべきで、医療・介護・福祉がどうあるべきで、歯科医療がどうあるべきで、そして、私たち個々の歯科医師がどうあるべきか。それを貫けるのが8029運動だと考えています。

インタビューを通じて得られた言葉の一つ一つに、これからの時代の歯科医療を感じさせられる。



「8020運動」は平成元年に始まり、時代を通じて日本の歯科医療のスローガンであり続け、目指すところを示してきた。

平成の最後の年に産声を上げ、令和に入り力強くその活動を始めた「8029運動」が、新時代を通じた日本の歯科医療のスローガンとなり、歯科医療が国家・国民に提供していく価値を示す言葉として広く社会に浸透していくことを願う。



歯科医療が国民に提供できる価値を面として高めていくためには、歯科医師会・連盟がより強くなる必要があり、一人でも多くの歯科医師が、歯科医師会・連盟の活動に参加していくこと、コアに参加できずとも会員となり賛同していくことが大切となる。

「学術を牽引し、自費診療を中心とした歯科医療を提供する歯科医師。」

「保険医として、地域医療に貢献している歯科医師。」

「海外に飛び出して、活躍している歯科医師。」

「子育てをしながら、週に数日臨床現場に立つ歯科医師。」

「学府や病院で働いている歯科医師。」

そして、「自らの診療時間やプライベートな時間を犠牲にしてでも、歯科医師会や歯科医師連盟で尽力している歯科医師。」

ひと昔と比べて歯科医師のキャリアについて得られる情報も多くなり、多様化した時代において、他にも様々な生き方があるだろう。

それぞれの立場や思いがある中で、「歯科医療が国家・国民にとって良いものであって欲しい」と願わない者はいないであろう。それは、歯科医師のみではなく、歯科医療に関わる全ての人の願いであろう。

その共通の思いを束ねられるような成長戦略を日本歯科医師会が描き切った時、令和という時代は歯科医師会・連盟が、すべての歯科医師、および歯科医療従事者を代表する業界団体へと昇華していく時代になるのかもしれない。

このインタビューはWHITE CROSS編集部の協力でインタビューを掲載させていただきました。
掲載日:2019/12/2 (前編)2019/12/3(後編)
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。

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