山根 源之先生、橋本 和彦先生ご略歴・抄録

山根 源之(やまね げんゆき)
〔略 歴〕
1970年 東京歯科大学卒業
1974年 東京歯科大学大学院歯学研究科修了(口腔外科学専攻)歯学博士
1996年 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座主任教授
東京歯科大学市川総合病院歯科・口腔外科部長(2011年3月まで)
1998年 東京歯科大学市川総合病院副病院長(2010年5月まで)
2006年 東京歯科大学口腔がんセンター長併任(2011年3月まで)
2011年 東京歯科大学名誉教授(現在)
2012年 NPO法人口腔がん早期発見システム全国ネットワーク(OCEDN)副理事長(現在)
〔これまでの主たる学会活動〕
現在:一社ジャパンオーラルヘルス学会(旧日本歯科人間ドック学会)理事長 歴任:一社日本歯学系学会協議会理事長、一社日本老年歯科医学会理事長、一社日本口腔内科学会理事長、一社日本口腔診断学会理事長、公社日本口腔外科学会理事・常任理事、一社日本有病者歯科医療学会理事、日本歯科医学会理事
抄録
口腔がんは、舌がん、歯肉がんをはじめ口腔内のどこにでも見られます。また胃がんや肺がんなどの口腔転移もあります。口腔がんはがん全体の1~3%と発生頻度は低いのですが、治療後は口腔機能が障害され、進行がんや頸部リンパ節や肺などへ転移すると口腔のみならず全身の健康に大きな影響を及ぼします。
口腔は眼で直接観察でき、触診が出来る部位なので歯科医師、歯科衛生士は日常の診療時に病変の有無をチェックできます。口腔粘膜の変化を早期発見できれば、早期治療につながり患者のダメージを低く抑え、生命を救います。
皆様はすでにベーシックコースで、口腔の基本的な診かたについては理解されているでしょう。今回はアドバンスコースとして、扁平上皮がん以外のがんと口腔粘膜の変化の中で悪性を疑う症例および悪性化する可能性がある症例について話します。
悪性腫瘍全部を「がん(癌)」と言いますが、それには上皮性悪性腫瘍の「がん腫」と非上皮性悪性腫瘍の「肉腫」があります。口腔にはそれらに加え造血器(骨髄やリンパ節)から発生する血液のがんが見られます。口腔がんはほとんどが「がん腫」でその中で扁平上皮がんが多くを占めています。しかし、唾液腺には悪性多形腺腫、粘表皮がん、腺様嚢胞がん、腺がんなどの「がん腫」が発生します。また顎骨や、顎顔面部の筋肉、線維性結合織、脂肪、血管、リンパ管、神経組織などの非上皮組織に「肉腫」が発生します。それらは、悪性黒色腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫などです。
造血器のがんとして白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫が口腔に症状を表します。
扁平上皮がんは表面の色と形で初期像をとらえることができますが、扁平上皮がん以外のがんは少し複雑です。しかし、視診と触診で変化をとらえることは可能ですので、検診の進め方について症例をお見せしながら話します。
現在、液状化検体細胞診システムは口腔がん検診の際のスクリーニング検査として普及しつつあります。病理組織検査は口腔がんの治療を行わない歯科クリニックでは行いません。細胞診は扁平上皮がん以外のがんは表層に病変がない症例が多いため適応ではありません。しかし、口腔には扁平上皮がんが多いので細胞診は良い手段です。液状化検体細胞診システムについては第2部で橋本和彦先生がお話しをします。 皆様が口腔粘膜の観察をスムーズに実施できるようにお手伝いが出来れば幸いです。
橋本 和彦先生

橋本 和彦
〈略 歴〉
平成17年3月 東京歯科大学卒業
平成20年4月 東京歯科大学大学院歯学研究科(臨床検査学専攻)入学
平成23年9月 東京歯科大学大学院歯学研究科(臨床検査病理学専攻)修了
博士(歯学)の学位受領
平成23年11月 東京歯科大学臨床検査病理学講座 助 教
平成27年3月 東京歯科大学臨床検査病理学講座 講 師
平成27年4月 東京歯科大学市川総合病院臨床検査科病理 講 師
現在に至る
〈資 格〉
1.死体解剖資格(病理解剖) 第8892号
2.日本病理学会認定口腔病理専門医 第171号
3.日本臨床細胞学会認定細胞診専門歯科医 第8031号
4.日本口腔検査学会認定口腔検査学会認定医 第33号
抄録
口腔は直視直達できる領域であるがために、口腔粘膜疾患の診断は肉眼所見による診断、つまり視診が主流となって行われています。しかしながら上皮異形成・上皮内癌および初期癌と、良性の口腔粘膜疾患との鑑別が肉眼的に困難な場合がしばしばあります。このような症例に遭遇した時、肉眼では捉えきれない変化を捉え、病変のスクリーニングや診断をすることができる検査があります。それは、細胞診・組織診などの病理検査です。病理検査は全知全能ではありませんが、局所に生じた病変そのものの細胞・組織を光学顕微鏡で直接「視る」検査であり、その病変の診断に絶大な威力を発揮します。中でも口腔細胞診は組織診よりも生体への侵襲性が低く、病変のスクリーニングに適しており、口腔癌の早期発見に役立つ検査と考えます。また口腔は細胞・組織の採取を行いやすい領域ですので、日常の診療において口腔細胞診は画像検査に次いで行いやすい検査法なのではないでしょうか。今回の講演では、口腔細胞診の実際について動画を交えつつ紹介できればと思います。