義歯刻印事業

【目 的】

昭和60年の日航機墜落事故において歯科所見による身元確認の重要性が注目され、これを契機として、全国的に警察歯科医会が組織されるようになりました。
そして平成23年には死者・行方不明者が18,400人を超える戦後最大規模の東日本大震災が発生しました。この際の身元確認には地元の歯科医師は勿論のこと、全国から法歯学者、警察歯科医、開業歯科医等が結集して身元不明死体の個人識別に従事し、多くの身元特定に至りました。今回の震災においても生前の歯科診療録とご遺体の死後記録との照合は個人を特定する重要な手段となりました。
しかしながら、無歯顎の方や治療痕の全くない方の場合は同じような口腔所見が多く存在し、身元の特定が非常に困難となります。そこで歯牙欠損部に使用される全部床義歯(総義歯)或いは部分床義歯(部分入れ歯)に何らかの方法で情報を付与することは個人の特定に極めて有用と思われます。
このような観点から千葉県歯科医師会は平成17年4月より大規模災害に備えて身元確認に有効な義歯へのIDコード埋入事業を開始致しました。

【有床義歯へのIDコード埋入事業】

1.平成17年度より、千葉県歯科医師会では会員に対し有床義歯へのIDコード埋入事業への協力を依頼し、協力を得られた方にIDコード(12㎜×5㎜・歯科医師IDコードと患者IDコードを記載したもの)をお送りしています。
IDコードは透明な薄いフイルムに黒字で小さく2段の数字を印刷したもので、このフイルムを新規に作製する義歯の目立たぬ場所に歯科医師或いは歯科技工士により埋め込んで頂くものです。
尚、IDコード埋入にあたっては個人情報保護の観点から患者さんに説明の上同意を得る必要があります。
<例>  120200037 → 歯科医師IDコード
       0001   → 患者IDコード(義歯作成ナンバー)
  上段  12;都道府県コード番号(12は千葉県)
      020;郡市歯科医師会コード番号
      0037:歯科医師個人コード番号
  下段  0001;患者IDナンバー(各歯科医師が管理する)

2.IDコードが埋入された義歯装着の身元不明遺体が発見された場合
警察はご遺体にあった歯科医師IDコード(上段)を歯科医師会に照会し、義歯を作製した歯科医師を特定します。
そして連絡を受けた歯科医師は、管理する自院の患者IDコード(下段)一覧表から該当する患者さんを特定して警察に回答するといった流れとなります。

3.令和2年現在、本事業に350名を超える先生方の協力があり、平成29年度の1年間の義歯埋入数は上顎,下顎合わせて420床でした。
今後とも会員には協力を呼びかけ、一人でも多い参加を図ります。

義歯1
義歯2

【今後の展開について】

義歯などの補綴物に患者さんの情報を記録する方法は「義歯刻印」と呼ばれ、歯科医師や歯科技工士により患者氏名を義歯に直接刻印する、或いは氏名を印刷したプレートを埋入するなど、以前より一部の医療機関で行われていました。又、介護施設等でも施設職員や施設利用者からの求めによりボランティアとして義歯刻印を行う取り組みが各地でみられていました。
その後、義歯を装着されたご遺体の身元確認は迫り来る大規模災害等に備え、対応は急務とされ技術革新もあり各種の研究が進んでおります。
現在、千葉県歯科医師会では患者さんのIDコード埋入を進めていますが、その他の取り組みとして①直接刻印、②バーコード埋入、③QRコード埋入、④ICチップ導入などが知られています。千葉県歯科医師会はより良い手段を求め、今後これらの取り組みの実効性に関し検証してまいります。
今後の展開としましては、義歯への情報付与はご遺体の身元確認だけの利用ではなく認知症患者の増加に伴い、徘徊等による行方不明者の捜索においても有効とされ、今後は歯科関係者と介護施設関係者が共同して研究が進むのではないかと思われます。そして、国民に対し義歯に情報を付与する事の重要性を広く理解して頂くことが何よりも肝要であり、それ故に国がリーダーシップを取り普及にあたる期待が持たれています。